化粧筆としても人気の熊野筆。その特徴と歴史、人気の秘密とは?

熊野筆伝統工芸品・民芸品
熊野筆

ハリウッド女優にも人気の熊野筆

 「1本は持ってみたい憧れの化粧筆」と言われ、有名なバレリーナやハリウッド女優、トップモデル、著名なメイクアップアーティストが使っている世界的に人気のある化粧筆、熊野筆をご存知ですか?

 熊野筆は「筆の都」と称される日本最大の生産地広島県安芸郡熊野町で作られている伝統工芸品です。熊野筆には多くの種類の筆がありますが、どれも先端が整っていて、非常に柔らかく滑らかになるように穂先が仕上がっているのが特徴です。通常の筆はすでにカットしてある毛を揃えて作りますが、熊野筆は手刀を使い、毛の一本一本を見て悪い毛や逆毛などを取り除き先端をカットしないで穂先を揃えて作られます。

 美しく作られているだけではなく、原料となっているタヌキやイタチ、馬などの毛の柔らかさを活かせるように仕上げており、化粧筆は使うととても柔らかいのも特徴です。「ずっと使っていたい」と思うほど、肌に対して優しい触感になるように作られています。フェイスパウダーも絶妙な具合で含ませることができ、化粧の仕上がりにもムラがありません。

熊野筆の生産地、広島県安芸郡熊野町ってどんなところ?

 四方を山々に囲まれた熊野盆地を中心に広がり、熊野川が流れる熊野町。現在、約100社もの筆メーカーが軒を連ね、人口約23,000人に対して約2,500人、町民の約10人に1人が筆づくりに携わってます。

熊野筆の特徴

 熊野筆の特徴は 、その作り方と使いやすさにあります。穂首の材料の毛には10種類以上の獣毛を使用しており、筆の軸には竹または木を使用しています。熊野筆は一人の職人の手でできるのではなく、一本の筆を作るのに「素材選び」「穂首作り」「穂首を軸に接着する」「仕上げ」「銘を刻む」という工程を何人もの職人が手分けして行うので、一本一本が非常に丁寧に仕上げられています。

熊野筆の原料

 熊野筆には10種類以上の動物の毛が使われており、今回はその中でも主要なものをご紹介します。

  1. 山羊
    体のどの部分の毛もそれぞれに異なる特徴があり、筆の原料として使用されています。

  2. 栗毛・白毛・青毛の三種類の毛色があり、体のほとんどの部分が筆に使われます。
  3. 鹿
    毛は太くて硬く先は鋭く尖っています。毛の根元が空洞になっていて、墨の含みがよいのが特徴です。
  4. タヌキ
    毛先が鋭く弾力があり、毛が長いことから、主に太筆の命毛として使われます。
  5. イタチ
    尻尾の毛だけを使います。 毛先が細く弾力が強いので、毛質は最高です。
  6. ジャコウネコ
    毛の長さが短いので細筆だけしか使えませんが、毛先はとても鋭く弾力が強いのが特徴です。
  7. ウサギ
    野兎の毛と紫亳(しごう)と呼ばれる先が黒色の毛の2種類があります。
  8. 灰リス
    最高級の化粧ブラシに使用します。

筆の日本4大生産地

  1. 愛知県豊橋筆
    書道家向け高級筆としての生産量は全国の80%を占めており、年間180万本が全国で販売されています。
  2. 奈良県奈良筆
    奈良筆は機械を一切使わず、材料の仕入れから仕上げまでの工程全てを筆匠一人で行っています。
  3. 広島県川尻筆
    川尻筆は京筆からの流れをくむ古くからの「練りまぜ」技法が主流で、書道用の筆、写経用の筆あるいは日本画家や陶器・漆器家などに愛される職人筆として知られています。
  4. 広島県熊野筆
    筆の全国シェア8割を誇り、川尻筆と合わせると広島県だけで筆の全国シェア9割になります。

熊野筆の歴史

 熊野筆の歴史は深く、誕生したのは江戸時代の末期。農業だけでは生活ができないため、熊野の土地に住んでいた人が農作業をしない時期に兵庫県や奈良県まで出稼ぎに出ていました。出稼ぎ先から筆や墨を仕入れて行商をしながら熊野へ戻ってきます。このような行商を繰り返していくうちに、筆の作り方を学んだ人々が熊野へ技術を持ち帰り、その技法を熊野の土地に広めたことにより筆が盛んに作られるようになりました。

 明治5年8月2日(1872年9月4日)に太政官より発せられ学校制度が開始されました。小学校で筆と墨が使われるようになり、筆の需要も増加、職人の指導が入ることで筆の生産がさらに盛んになりました。熊野にはたくさんの問屋ができて、農業と行商を兼用していた人は生産量を増やすため、生業として筆を作りました。しかし、明治末期になると鉛筆が使われ始め毛筆の存在意義が問われるようになり、大正時代には毛筆がついに廃止されてしまいます。

 しかし、昭和16年(1941年)になると国民学校令が制定されて習字が芸術科目として一教科に加えられ毛筆の存在価値が再び見直されますが、太平洋戦争が勃発すると職人であった男性は徴兵に取られてしまいました。代わりに女性が作っていましたが、それでも戦争が進むにつれて筆を作る職人がいなくなり次第に作られなくなっていきました。

技術を化粧筆に応用

 第二次世界大戦が終わると教育方針も変わり、習字教育が制限されてしまったため、一般的な筆の需要は落ち込んでしまいます。その中で、昭和30年ごろに熊野で今まで培ってきた筆の生産を化粧筆の生産に応用することで、化粧筆の生産が増加していきました。さらに昭和50年に熊野筆は広島県で初めて伝統工芸品に指定され、品質の高さが国内外で認められました。

熊野筆作り体験のできる場所

 晃祐堂

http://www.koyudo.co.jp/html/page1.html
株式会社晃祐堂さんでは工場見学や熊野筆作り体験などを行っています。ぜひ世界に一つの自分だけの化粧筆を作ってみてはいかがでしょうか?

熊野筆を購入できる場所

 熊野筆セレクトショップ

熊野筆セレクトショップは、熊野筆のコンセプトである、natural hair ends are used.をメインビジュアルとして取り入れています。

また、筆をテーマとした日本で唯一のミュージアム「筆の里工房」館内で、約1,500種類の熊野筆を取り扱う「熊野筆セレクトショップ本店」をフラッグシップ店とし、「広島店」「銀座店」の3店舗を展開しています。

熊野筆セレクトショップ http://kumanofude-selectshop.com/

 筆の里工房 
 筆の里工房は熊野町が設置した、地域の筆づくりの中心的な存在です。書筆、画筆、化粧筆約1,500種類を販売。

熊野町には180年歴史を有し、国内生産量が全国一と言われる伝統的工芸品「熊野筆」があります。この地域の特色を生かした筆の里づくりの中心的な役割を担う施設が「筆の里工房」です。創造的な活躍を通じ、町民一人一人が「こころの通うまちづくり」に参加し、筆の里にふさわしい地域文化の創生を図ろうとするものです。

筆の里工房 http://kumanofude-selectshop.com/about/

 180年の歴史の中で形を変えていった熊野筆。現在、熊野筆は化粧筆だけでなくボティブラシや洗顔ブラシなどにもその技術が使われ世界中で愛されています。

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