平安時代から続く伝統工芸品。「西陣織」の特徴と歴史

西陣織伝統工芸品・民芸品

海外でも人気の西陣織の特徴、その魅力とは?

 西陣織は京都を代表する着物や帯といった伝統的な高級絹織物の一つであり、国内だけではなく海外からも非常に評価されています。西陣織が多くの人に愛される理由として、
①多彩な色糸による色彩美 ②精密に織り上げる紋様美が挙げられます。西陣織は高度な技術から生まれる複雑な柄が非常に美しく、歴史と文化に裏打ちされた格調高い織物です。

西陣織の歴史

 西陣織の歴史は長く、その起源は古墳時代まで遡ります。5、6世紀頃中国大陸からの渡来人である豪族の秦氏(はたうじ)の一族が現在の京都・太秦あたりに住みついて、養蚕と絹織物の技術を伝えたと言われています。平安時代に京都が都となり、朝廷は織物を管理する織部司(おりべのつかさ)と呼ばれる役所が置き、絹織物技術を受け継ぐ工人(たくみ)たちを組織させ綾・錦など高級な織物作りを奨励しました。その中で、工人たちは現在の京都市上京区上長者町地域に集まって、織部町といわれる町を形成したと言われています。貴族たちは優秀な工人を京都に集め最高級のものを作らせので西陣の織物は急速な発展を遂げました。

Ichiro Wada – http://www.ichiroya.com/index.php, CC BY-SA 3.0 cz,

 平安時代中期から官営の織物工房は徐々に衰退しましたが、工人たちは独自に織物業を始めるようになり、鎌倉時代には「大舎人 (おおとねり) の綾」「大宮の絹」などと呼ばれる織物などが作られました。また、大陸(当時の宋)から伝えられた新しい織物技術を研究し独自の技術を開発していきました。

 室町時代中期の応仁の乱の中で西陣の山名宗全 (やまなそうぜん) が本陣を構えていた付近に戦禍を逃れて離れていた職人たちが再度集まり、織物業を再開しました。これが西陣織の名前の由来と言われています。その後、安土桃山時代に入ると大陸伝来したの高機(たかはた)という技術を取り入れ、先に染めた糸を使って紋織(模様や色柄を織ること)が可能になりました。

吉田忠七・井上伊兵衛・佐倉常七(左から)

 
 
 江戸時代になり、世の中が安定して町人文化が台頭してくると西陣エリアには、糸問屋や織屋が立ちならぶ織屋街作られ、高級織物からちりめんや縞に至るまで様々な織物を生産し、一大産地としてさらに繁栄しました。しかし、江戸時代後期になると度重なる飢饉、幕府による奢侈 (しゃし) 禁止令もあって需要が減少。大火事、丹後や桐生など新しい絹織物産地が生まれたことも痛手となり西陣にも苦境が訪れます。

 明治時代の東京遷都によって、西陣は高級織物の需要者層を大幅に失いましたが、世は文明開化、そこで京都府によって西陣織の保護育成が計られました。1872年には、職人の吉田忠七、井上伊兵衛、佐倉常七をフランスに派遣、フランス式の数十種の織機装置を日本で初めて輸入。織物技術の近代化に成功しました。こうして西陣は新しい技術を取り入れることにより、幕末から維新にかけての危機をなんとか乗り越えることができました。

西陣織の種類・柄

 西陣織は先染めの紋織物であり、多くの品種を少量ずつ生産していく特徴を持っています。

  1. 「綴れ(つづれおり)」
    平織を応用した綴織は、よこ糸で紋様を織り出すため、たて糸に比べ3倍から5倍も密度の大きいよこ糸でたて糸をつつみ込むようにして織ってゆきます。したがって織り上がった織物の表面には、たて糸はみえません。複雑な紋様を表現するために「爪掻き(爪をノコギリの歯のようにギザギザにきざんで道具のように用いる)」という技法で織り込んでゆきます。複雑な紋様になると熟練の職人でも1日に1センチしか織れないものもあります。
  2. 「経錦(たてにしき)」
    様々な色の糸を使って織られた絹織物は、錦と呼ばれており、経錦は文字通り経糸によって、地の紋様が織り出されている錦です。つまり3色の配色による織物であれば3色3本の経糸を1組として、これが互に表裏浮沈交替して紋様を織り出しているわけです。
  3. 「緯錦(ぬきにしき)」
    生地の中に大きな文様を織り出すことができます。また緯錦は様々な色を使いの文様を表現することが可能です。
  4. 「緞子(どんす)」
    古くは男性の衣服として重宝されていましたが、元禄前後から女性の帯等にも使用されるものとなりました。通常、経糸と緯糸にそれぞれ色の違う練り糸を使って、五枚繻子で地と模様を織り出すので、密度が高く厚地で光沢がありどっしりとした高級感があります。
  5. 「朱珍(しゅちん)」
    室町時代から作れるようになりました。特徴として同じ繻子織の緞子と異なり「地上げ紋」がありません。豪華さ華やかさが特徴的。
  6. 「紹巴(しょうは)」
    強く撚った糸を経糸、緯糸共に使用し織っていきます。細かい地紋があるのが特徴。地は厚くなく以前は羽織裏などによく使用されたようです。
  7. 「風通(ふうつう)」
    普通の織物の断面は一重ですが風通織の断面はそれぞれ二重、三重になっていて多層織物と呼ばれています。風通織はこの多層織物の代表といわれるもので、二重、三重織で、上下あるいは、上中下のそれぞれ色の異なった織り方を交互に表面に出して模様を表現します。「二色風通」といって表と裏で反対色の紋様を表現できます。
  8. 「捩り織(もじりおり)」
    通常、織物の経糸と緯糸は直角に交差して布を形成しますが、綟り織物は綟り経糸が緯糸1本または数本ごとに地経糸の左右にその位置を変えて緯糸と緯糸との間に隙間を作ります。からみ織りともいわれ、「紗(しゃ)・羅(ら)・絽(ろ)」などがあります。
  9. 「本しぼ織」
    練染した絹糸を用い、その糸を引き揃えた後、下撚りをかけさらに糊をつけます。その糊が乾く前に撚りをかけていきます。右撚り・左撚りを二越ずつ交互に織り込み、製織後、ぬるま湯に浸して強くもみ、布面にしぼを出します。
  10. 「ビロード」
    西陣のビロードは特有の羽毛や輪奈をつくるため横に針金を織り込み、後で針金の通った部分の経糸を切って起毛したり、引き抜いて輪奈を作る有線ビロードです。なめらかな光沢感と柔らかな手触りが特徴です。
  11. 「絣織(かすりおり)」
    たて糸とよこ糸を部分的に防染して平組織に織り上げて何らかの紋様をあらわしたものを絣といいます。朱子組織で織られるものもあり、それぞれ文様を表現していきます。
  12. 「紬(つむぎ)」
    真綿を手ツムギした糸を経糸、緯糸に使用して手機で絣、縞、白などに織り上げた先練、先染めの平織りの織物です。西陣の紬は縫い取りの文様を表現するなど都会的な紬で「都ぶり」と名がつけられています。

 

 1976年にこれら12種の織り技法が国の伝統工芸品の指定を受けました。西陣織というと着物や帯といったイメージが強いのですが、近年ではこの技法を用いてマスクやネクタイ、アクセサリーやインテリア用品など新しい分野にも取り入れられるようになりました。時代の移り変わりと共に柔軟に進化を遂げてきた歴史がありますが、これは技術や奥深い魅力を途絶えさせないため日々様々な取り組みが行われていることの現れでもあります。

西陣織の作り方

  1. 図案(紋意匠図)作成
    西陣織で最も重要といえる工程。紋意匠図は織物の設計図といわれる工程で、方眼紙にデザインを写しどの組織で織るか考えたうえで、方眼紙を塗分けていく作業です。伝統的なデザインへの理解はもちろん新しい感覚をデザインにプラスします。
  2. 原料準備
    撚糸と呼ばれる工程は、織りの種類に合わせて糸の太さや撚りを調整しベストな風合いを作り出します。先染めの織物である西陣織では、糸染めと呼ばれる絹糸を指定通りの色に染め上げることも重要な工程のひとつです。西陣織では少ないもので3,000本、多いものでは8,000本もの経糸が用いられます。「必要な長さと本数の経糸を準備する」この工程は整経(せいけい)と言われます。
  3. 機(はた)準備
    綜絖(そうこう)とは機の部品のひとつで、織機で緯糸を通すために経糸を上下させるための装置です。
  4. 織り
    複雑な文様の織物や高級な帯などは手作業で織っていきます。
  5. 仕上げ
    織り終わった西陣織に独特の風合いを出すため整理加工を経るものもあります。

西陣織を体験できる場所「西陣織会館」

 西陣織会館 住所:京都市上京区堀川通今出川南入西側

手織体験 ミニ手機を最大50台設置しています。約20cm×30cmのテーブルセンターを織ることができます。 織り上がった作品は、体験参加の記念にお持ち帰りいただけます。

https://nishijin.or.jp/experience/

オススメの西陣織りの通販サイト「細尾」

 HOSOO

細尾」は元禄元年(1688年)に京都西陣にて織物業を創業。以来、きもの文化の継承に取り組んでいます。伝統的なきものと革新的なテキスタイルを通じ、日本の優れた物づくりの価値を提供しています。

https://store.hosoo.co.jp/
タイトルとURLをコピーしました